が(と頭に手をやって)どうも、……妙《みょう》ちきりんなのです。
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また哄笑が爆発する。一通り哄笑が終ると、一同は改まって、大納言に慇懃《いんぎん》な御辞儀《おじぎ》をする。それが済《す》むと、再び私語・囁き。
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御行 分りましたかな?……そう云うわけですでな、……こちらにいらっしゃるこのお若い汝夫《なせ》の君と、あちらにいらっしゃるそのお姫様とを、ひとつ、皆さんの前でめあわせてみたらどうか、とまあこう考えてみたわけなのですよ。
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また哄笑が爆発する。それから、一同改まって大納言に慇懃な御辞儀。……
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男4 大納言様。それは本当に面白いお考えでございます。
女6 本当に面白い思いつきでございますわ。
御行 でしょう?……いや、これは私が、この年《ねん》に一度の葵祭《あおいまつり》の吉日を選んで、皆さんを喜ばせて上げようと思って、一月も前から考えていたことなのですよ。それを、あなた、どなたか知らんが、まあ大変な誤解をなさったもんですよ。まるで、この物狂いの娘が、人もあろうにこの私の所にお輿入《こしい》りをするかのように云いふらしたのですからね。いや、もう、お蔭でこの大納言、とんだ迷惑《めいわく》をしましたよ。しかも私にはれっきとした奥の方がいるんですよ? まあ、噂をなさるのも時には愛嬌《あいきょう》があっていいものですが、いくらなんでも、そんな、あなた、根も葉もない噂を都中にふれ廻されたら、どんなお人好しの大納言だって、そりゃ、あなた、怒りますよ。
文麻呂 (悪夢から我に返ったように)……嘘《うそ》だ! そんなことはみんな嘘だ!
女10[#「10」は縦中横] あらッ! この人何か言ったわ!
男2 大納言様! いくらか正気づいて来たようでございますよ。
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男女達、再びがやがやと私語をしながら、文麻呂の様子を好奇的《こうきてき》に眺めはじめる。
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御行 おや、文麻呂殿。……少しは気分がよくなって来ましたかな?……さあ、それでは、この機会を見計らって、なよたけ姫の「聟取《むこと》り」の式をあげることに致
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