#小書き片仮名ヱ、428−6]ッと忌ま/\しさうに舌打をして帰つてしまふのであつた。
二人のマルクス(私達夫婦はこの二人の青年をマルクスと呼んでゐた)
二人の青年が、私の家の玄関口を訪れたとき、妻は例の台詞でこのマルクスのお札売を追払つてしまはうとしたのであつたが、二人のマルクスは、一足飛に室の中に襲ひかゝつて来て、盛んにしやべり立たのであつた。
一人のマルクスは瘠せこけてゐた。いま一人は肥えてゐた。
肥えた方のマルクスの懐が妊婦のやうにふくらんでゐた。
肥えたマルクスは、懐中からそのふくれたものを取出て
――ぢやらん、ぢやらん、ぢやらん。
それはタンバリンであつたのだ。
しきりに鈴を鳴らし始ると、いま一人は古ぼけた皮の鞄の中からポスターを取出て、私の室中にその毒々しい極彩色の絵や統計の描かれたものをべた/″\貼はじめた。
――なんといふ遠慮のない人達でせうね。
さすがに妻は驚いた様子であつた。
彼等が帰ると、私も議論に疲れそして彼等のいつてゐることが、いかにも真理のやうに考へられて、瞬間興奮を感じた。
しかし彼等が、霰に頭を打たれて、暗いなかに立去つてしまふと
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