ねのけてもはねのけても、匍つて来て屋根の上に白い獣のやうな腹を載つけた。
硝子窓から、霧の戸外を覗いて見ると、一寸先も見えない。
不意に霧の中に隠れてゐる何者かゞ、私達の家にむかつて、弾丸を撃ち込みはしないかといふ、不安に脅かされる日もあつた。
私の家を訪ねるものは、獣や鴉の他に毎土曜日の、顔の黒ん坊のやうな、煙筒掃除人と、郵便配達の声位なものであつた。
或る日、不意に二人のマルクスが私の家を訪ねて来た。
(四)
郊外になど住んでゐると、色々な物売が、女子供とみれば甘くみて、押つけがましく、恐喝らしく玄関先に品物を拡げ、買つてやらなければ何時までも立去らうとしないことが多い。
殊に私を憤怒させるものは、神仏の押売をする人達であつた。
性来神や仏といふものを嫌つてゐる私は、この神仏押売人の撃退策を、平素から妻に教へこんでゐた。
――妾《わたし》のところには神棚もお仏壇もありませんので、お札を頂戴してお粗末になつてはかへつて勿体ないと思ひますので。
私はかう台詞を妻に教へこんであるのだ。
『天照皇太神宮』や『稲荷大明神』や『イヱスキリスト』などのお札売はチ※[
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