した触感の女の声がした。
 ――垢も無いやろ、ざつとでいゝぞえ。
 湯気の中の今度は男の低い声だ。
 男湯に、はいり込んできた女はまさしく牛の化物であつた。
 斑点のある生物《いきもの》であつた。
 実に痩こけた老婆であつたが、その皮膚は瀬戸物のやうに、真白に光沢があつた。
 俗にシラコ[#「シラコ」に傍点]といふ不気味な皮膚をしてゐた。
 二人の痩た老人夫婦は、おたがいの膚に触れあつて、たがひの背中を流し合つてゐる様子が、いまにも崩れ折れさうな枯れ木が、押あつてゐるやうであつた。
 婆さんは臆面もなく素裸であちこち歩き廻つた。
 ――ちよつと、御免なされや。
 かういつて、婆さんは俺の背中に、その人間離れをした白い皮膚の股《もゝ》を触れたりして、平気で湯を汲んだのであつた。
 歳をとると、羞恥心などは遠くに置き忘れてしまふのだ、私はしんみり考へながら慌てゝ湯槽に飛込んだ。
 老人の裸体ほど醜怪なものはない、下腹の皮が、唇のやうに垂れ下がつて、歩く度にぶら/″\と揺れた。
 それにくらべて、お麗さんの体はどんなであつたらう。
 モデル台の上に立《たつ》てはにかんだ彼女は。
 皮膚は張切
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