にかにと経費を意外につかつてゐたので僅か三十円の金であつたがとうとう彼女へは支払へなかつた。
 蘭沢を始め人々は、彼女の裸を散々絵筆で突つき廻した揚句金を払はないなどゝいふ行為をこの上もなく罪悪と感じた。
 ――神よ我々を罰し地獄におとし給へ。
 仲間はかく内心にさけび、そして悲壮な顔をした。
 しかし私と秋辺とは彼女の羞恥心をうばつたことを、彼女への大きな報酬と信じてゐた。
 そして私は、そのお麗さんを描いたもの、その一枚の裸婦の画題を『未来派万歳』と命名したのであつた。



底本:「新版・小熊秀雄全集第一巻」創樹社
   1990(平成2)年11月15日新版第1刷発行
底本の親本:「旭川新聞」旭川新聞社
   1927(昭和2)年1月18日〜23日
初出:「旭川新聞」旭川新聞社
   1927(昭和2)年1月18日〜23日
入力:八巻美恵
校正:浜野 智
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
2006年3月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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