感じ、大いそぎで、猿股をはき、浴衣《ゆかた》を着てその物静かな舞踊をよした。
(三)
二人の生活には、弾力のないゴムのやうな、救ひのない一条の脈がつらぬかれてゐるやうに思はれた。
女もまた、救ひのない脈を、内心深く感じ、これを怖れてゐるらしく、青丸のよだれかけに赤三角に黒い縁取りの衣匠を、念入りに縫ひ取つたものを作つてやつたり思ひがけない、かはつた美しい草花を、私の汚れた机の上の、花瓶に、不意に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]してをいたり、電燈の球をふいて(彼女が球をふくなどゝいふことは、実に稀であつた)急に室内を明かるくしたりして二人の感情を朗らかに、更新させようとする、色々の苦心も、まざ/″\と感じられた。
だが私は、外出から帰り、青丸の新調のよだれ掛けをほめる前に
――青丸の額の、禿あがり具合まで、俺にそつくりぢやないか。
と、まずしひて、不機嫌に憂鬱な眼となつてから、青丸のよだれ掛けを賞めた。
あやしい老人の精気の凝つた、南瓜畑は、日中の晴天のもとに、その翼のやうに、重い大きな葉をひろげた。
――若さの奪略のため
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