丸との心を浮き立たせなければ、申訳のないやうな気持になつた。
 晩酌の酔ひも手伝つて、私は着物をぬぎ捨て、猿股ひとつになつて、青丸の前に、ワンワンと犬のほえる真似をして、座敷中を四ツんばいになつて駈廻つた。
 ――さあ、今度は狼だ。
 うなり声をたて、坐つてゐる青丸の頭上を、幾度も跳躍した。
 青丸は上機嫌で、声を立てゝ可愛らしく笑つた。
 妻はたいして愉快でもないらしく、折々青丸に調子を合せて、苦笑するにすぎなかつた。
 ――今度はロシア舞踊だ、ニジンスキイもはだしの旋律舞踊だ。
 青丸にむかつて、かういつて踊りだしたが、小さい青丸は私の舞踊のよさ[#「よさ」に傍点]は到底理解出来ないので、私は実は彼女にむかつての公開であつたのだ。
 踊りながら、猿股のひもを引くと、猿股は波を辷る漁船かなにかのやうに、冷たい触感で落《おち》、まつたくの素裸となつた。腹部のあたりに、白々とした寒い風がまとはりついた。
 三年前の彼女であれば、男の素裸を見て、驚死したかも知れないが、現在の彼女にとつては、大してその気持を引きたゝせることでもなかつた。
 妻はにこりともしなかつたので、私は羞恥に似たものを
前へ 次へ
全12ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング