丸との心を浮き立たせなければ、申訳のないやうな気持になつた。
晩酌の酔ひも手伝つて、私は着物をぬぎ捨て、猿股ひとつになつて、青丸の前に、ワンワンと犬のほえる真似をして、座敷中を四ツんばいになつて駈廻つた。
――さあ、今度は狼だ。
うなり声をたて、坐つてゐる青丸の頭上を、幾度も跳躍した。
青丸は上機嫌で、声を立てゝ可愛らしく笑つた。
妻はたいして愉快でもないらしく、折々青丸に調子を合せて、苦笑するにすぎなかつた。
――今度はロシア舞踊だ、ニジンスキイもはだしの旋律舞踊だ。
青丸にむかつて、かういつて踊りだしたが、小さい青丸は私の舞踊のよさ[#「よさ」に傍点]は到底理解出来ないので、私は実は彼女にむかつての公開であつたのだ。
踊りながら、猿股のひもを引くと、猿股は波を辷る漁船かなにかのやうに、冷たい触感で落《おち》、まつたくの素裸となつた。腹部のあたりに、白々とした寒い風がまとはりついた。
三年前の彼女であれば、男の素裸を見て、驚死したかも知れないが、現在の彼女にとつては、大してその気持を引きたゝせることでもなかつた。
妻はにこりともしなかつたので、私は羞恥に似たものを
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