かになり、したがつて女の容姿《すがた》がよくなること。婦人は身嗜みとして、平常から食物の上にもこの位の細心な注意が要すること。などゝ急に雄弁になつて、彼女一流の理屈を述べたてた。
 ――蛇のやうに、醜悪な姿態《しな》をつくつて、街を歩いてゐる女をよく見かけるが、あれなどは酢を飲みすぎた女だな。
 私は思はず苦笑して、妻の顔を見あげたのであつた。

 晩飯には、彼女は、ないことに変つた調理で私の舌を喜ばした。
 それは牛肉に胡椒を振かけたものであつたが、脂肪がすつかりぬけてしまつてゐて、サラ/\とした、淡白な味のものであつた。
 精一杯に、その肉の料理をほめそやすと、彼女は、得意さうにその調理法を語るのであつた。
 ――いかにも、お前らしい、ふざけた料理法ぢやないか。
 私は、呆れ果てゝ、その皿の上にのつた肉の数片を眺め見た。
 肉を何時間となく気永に脂肪のぬけきるまで、煮沸したものだといふ。
 精分の多い煮汁はみな捨てゝしまひ、肉の煮出し殻を皿に盛つたものだ、かうした些細な食膳の変化にも感激するほどに、妻の献立表は、毎日のやうに単調を極めてゐたのであつた。
 食後、私は何かしら彼女と青
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