んだよ
早く温《あたた》めてやらなければ……


なに大|丈夫《ぢやうぶ》だよ ほら目をあけた
おや? ここはどこだ
あんた凍《こゞ》え死ぬところだつたのよ
ピチクンはニャンちやんよりも弱虫《よわむし》だなあ アハハ


さあ、おいで 火星《くわせい》行ロケットを見せてあげやう
僕《ぼく》は火星へ行きませんよ
ハハハ テン太郎はすつかり火星|嫌《きら》ひになつたね
ちがひます 僕は星はみな好《すき》です 中でも火星は大好きです


それに どうして火星へ行くのをいやがるんだね
あんまりへんな夢《ゆめ》をみてしまつたんです


ハハハハ それでテン太郎は ほんとうの事を知りたくなつたんだね
さうです


さうぢや ほんとうのことを知ることぢや 火星に人|間《げん》がむりに居《ゐ》るやうに考《かんが》へてはいかん
さうですね 人間がゐるかゐないか研究《けんきう》すればいいんですね
さうぢや


火星《くわせい》の夢《ゆめ》を見たければ テン太郎のやうにベットの上で見たらいい
僕《ぼく》もう火星の夢はみません こんどは機械《きかい》をのぞいてほんとうのことを沢山《たくさん》知るんです
賛成《さんせい》!
賛成!


さあ みんな帰《かへ》らう
お父《とう》さんがいろいろのことを見せてやつた こんどはテン太郎は自分《じぶん》の学校の勉強《べんきやう》を帰つてやりなさい
さやうなら
さよなら


これこれテン太郎 一寸《ちよつと》まて きのふからな お父さんの髯《ひげ》にコオロギが巣《す》をつくつたんぢや
(エ?)
まあ驚《おどろ》いた 髯の中にですか?


さうぢや わしは殺《ころ》すことがきらひぢやから放《ほう》つておいたよ
ホレ鳴《な》いてゐる
やあ ふしぎだ?


あらほんと聞きたいわ
僕にも聞かせて下さい
さわいぢや鳴かないよ そつと寄《よ》つてきたまへ


(コロ コロ コロ)
ああ ほんとだ!
どうして髯の中になんか入つたんだらうな
いい声《こゑ》だなア


(コロ コロ コロ ハクション)
アレッ コオロギが くしやみをした!


ア、わかつた お父さんが口で鳴く真似《まね》をしてゐたんだ
では みなさんさやうなら


お父さんにやられちやつた
くやしいわね
なんだかこのまゝ帰るのは残念《ざんねん》だなあ


僕もさうだ 子|供《ども》や犬や猫《ねこ》が科学者《くわがくしや》に負《ま》けるなんていまいましいなあ
なんだか、このまゝ帰れませんね
くやしいな


いいことを考《かんが》へついた みんな……………………ネ
うまい考へだな
くやしいわね


(ゲロゲロゲロゲロ ゲゲゲゲゲゲ ゲーロゲロ ゲロゲロ)
こりや助からん どうもうるさい蛙共《かへるども》ぢやなあ


星|野《の》さん だいぶ蛙がうるさいやうですな
(ゲロゲロゲロ)
研究《けんきう》も何もできませんですね


おや これは
ヤしまつた
さつきの敵《かたき》うちか こりやいかん


(ピシャッ)


さあ みんな帰《かへ》らう
(ゲロゲロ ゲロゲロ)
やつと胸《むね》がスースーしたわ
(ゲゲゲゲゲゲ)
アハハハ
(ゲーロ ケロケロゲロ)



底本:「火星探険完全復刻版」晶文社
   1980(昭和55)年8月10日発行
底本の親本:「火星探險」中村書店
   1940(昭和15)年5月30日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記を新字旧仮名にあらためました。
※旧仮名遣いで誤っていると思われる箇所がありますが、底本通りにしました。
※テキスト中「()」で囲まれた部分は、底本では手書き様の文字で書かれています。
※底本には「ニャン」と「ニヤン」が混在していますが、そのままにしました。
※テキストの大半はふきだし内のネームで、改行が多く使われています。テキスト化にあたっては、適宜分かち書き(文節間の○字空き)をして、読みやすくしました。
※「ベット」「スピート」などの外来語表記は、そのままにしました。
入力:古江佐織
校正:浜野 智
2006年3月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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