さあ こんどは鏡の反射を街《まち》の方へ移《うつ》してみやう


やあ いま光つた所は水道《すゐだう》タンクだ


でも火星《くわせい》に生物《いきもの》がゐなかつたら かういふ研究《けんきう》は無駄《むだ》になるわね
いやいや さうではない、学者《がくしや》の研究に無駄はない 研究さへして置《お》けば他《ほか》のことにも応用《おうよう》できる


おぢさん いろいろ見せていただいてありがたう
ほんとうに面《おも》白かつたわ
おぢさん ありがたう
また、天|文台《もんだい》にやつて来|給《たま》へ 他《ほか》のものを見せてあげやう


やあ 愉快《ゆくわい》愉快
火星に生物が住んでゐたら面白いなあ
わたしたちのやうな猫《ねこ》もゐるかしら
猫がゐるとすれば、当然《たうぜん》鼠《ねずみ》もゐるだらうな


火星に鼠がゐるとすれば 鼠トリも発明《はつめい》されてゐるだらうなあ
とつた鼠は交番《かうばん》にもつていつて 買《か》つてもらふだらうな
すると 火星には交番《かうばん》もあるといふことになるわね


あつ これは大|変《へん》だ
やあ 急に目がくらくらしだした
どうしたのでせう わたし


さあ早く みんなどこかにかくれろ
やあ わかつた 月|野《の》博士《はかせ》が火星信号器《くわせいしんがうき》でぼく達《たち》へ光ををくつてゐるんだ
なんて まぶしいんでせう


ハハハ みんなまぶしがつて逃《に》げ出したぞ


降参《かうさん》だ
わあ逃げろ 逃げろ
待《ま》つてちやうだい
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火星《くわせい》の運河《うんが》


ああ重《おも》い もうすこしだ エッチラエッチラ
やあ お父《とう》さんがお帰《かへ》りになつた


テン太郎 けふ お父《とう》さんは気嫌《きげん》が悪《わる》いんぢや
こりや いかん
まあ どうなさいました


どうもかうもない わしは月|野《の》さんにヒゲをつかまれたんぢや
おや まあ
お父さんはいつも議論《ぎろん》をやつてゐるんだなあ


その通り しかし、わしも月野さんのヒゲをつかんでやつた
あなた ではまた火星《くわせい》のことか何かで
うん さうぢや


わしや腹《はら》が立つて かういふ風《ふう》にな うんとひつぱつてやつた
すると 月野もわしのヒゲにぶらさがつて うんとかうして引《ひ》つぱりおつた


(ブス ブスン)
あつ これは失敗《しつぱい》
まあ大|体《たい》 けふは天|文台《もんだい》で かういふ風な大さわぎぢやつたんぢや!
まあ ご本が
これはおどろいた


ニャン君 ご主人《しゆじん》の おへやで仕事《しごと》だ 仕事だ 早くきて手|伝《つだ》つておくれよ
ご用
いいわ 手伝つてあげるわ


大げさね ピチ君 白ハチ巻《まき》なんかして
そういふ君だつて頬《ほほ》かぶりなんかしておかしいよ
や、これ何んです お父《とう》さん
なんぢや


うむ、それぢや それが月|野《の》博士《はかせ》との問題《もんだい》の種《たね》だつたのだ
それは火星《くわせい》の運河《うんが》を写生《しやせい》した絵《ゑ》ぢや
運河といふのは 堀割《ほりわ》りの大きなやうなのですね


さうぢや この運河を望遠鏡《ばうゑんきやう》で見ると この様《やう》に あまり きれいにまつすぐな線《せん》なんで
(火星《かせい》シヤセイヅ)
その運河は何か生物《いきもの》がほつて造《つく》つたのだといふんですね


さうぢやよ 火星に生《い》きものがゐて運河をつくつたといふ説《せつ》をたてる学者《がくしや》がゐる
お父《とう》さんは 火星には生物《いきもの》がゐないといふんですか


わしは居《ゐ》ないとはいはん しかし居るともいはん
お父さんはどつちなんです


どつちか分らん ただね あの運河の様《やう》なものは 人|間《げん》なんかでなくともできると言《い》ふのぢや
火星に人間がゐると面《おも》白いんだがなア


テン太郎や 庭《には》へ出ておいで
何をするんですか


ピチ おまへ この紙をくわへて走れ わがはいがよしといふ所までだ よいか


馳《かけ》つこなら あたしだつて負《ま》けないわ
ニャン君《くん》になんか負けるもんか


フーフー どこまで走るんだらう
なあんだ いくぢがないのね


博士《はかせ》もつと走るんですか
止まれ よろしい 樹《き》の上にのぼれ


うわあ僕《ぼく》は犬だから 木のぼりは困《こま》つたなア
それぢや わたしが代《かは》つて登《のぼ》つてあげるわ


テン太郎サアン この辺《へん》でいいですか
てつぺんまで登れつて いつてゐるよ


もつとのぼるの 少しこわいわね
なあんだ僕をいくぢなしといつ
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