あたま》の大きいのと小さいのと
あらー いつてみたいわねえ
ホヽヽ 面《おも》白いところねえ


気に喰《く》わん 生物《いきもの》が居《ゐ》るはづがない 空《くう》気が薄《うす》くて住めんはづぢや
あれ、またお父《とう》さんが テン太郎の夢《ゆめ》の話で憤慨《ふんがい》してゐますよ


あ また失敗《しつぱい》した


それから僕《ぼく》は 体《からだ》がとても軽《かる》くなつて 空を自|由《いう》にとびまはりました
あらー あたし いつてみたいわ
だめだい テン太郎さんの夢の中へ行けるかい


火星の表面《へうめん》は地|球《きう》の引力《いんりよく》の五|分《ぶん》ノ二しかない だから人は地球にゐるときより二|倍《ばい》半は高く飛《と》べるが しかし、それ以上《いじやう》高くは飛べるはずがないのぢや
なあーんだ それつぽつち[#「それつぽつち」は底本では「それつぱつち」]ぢやつまらない
お父さん 僕それから市長《しちやう》にあひました 街《まち》の名まへはミルチス・マヂョル市といひました


(えつ! ミルチス・マヂョル?)
あつ! 危《あぶな》い! お父さん
博士《はかせ》が目をまはした
どうなさいました 貴方《あなた》!


お父《とう》さん しつかりして下さい
まあ お行儀《ぎやうぎ》が悪《わる》い
いや 驚《おど》ろいたよ
あゝ びつくりした


テン太郎 お前の行つた街《まち》がミルチス・マヂョルといつたかね
ほんとうですよ
なんですか そのミルチス・マヂョルといふのは貴方《あなた》


わしは驚ろいたよ お前の夢《ゆめ》の話の中でそれだけは真当《ほんたう》のことだよ
エ? お父さん ほんとにあるんですか
まあ 火星《くわせい》にさういふところがあるのですか


火星の街の名前ではないが 別《べつ》に地|球《きう》の学者《がくしや》がつけた運河《うんが》の名前にたしかにあるよ
どうしてテン太郎がそれを夢にみたでせう


たしか ミルチス・マジョルといふのもあれば 運河にはネクタル・アガトドエモンとか ハデスとか みんな名前が[#「名前が」は底本では「名前か」]つけてある
それぢや 火星の地図《ちづ》がちやんとできてゐるんだなあ


それにしてもお前が夢でミルチス・マジョルをみるとは どうも不思議《ふしぎ》だ
ほんとにふしぎだわ
ほんとにねえー


どうもおかしい まてよ


あら どこへ行つたんだらう


テン太郎さんばかり面《おも》白い夢《ゆめ》をみてつまらないな
あ、さうだ さうだ ニャンちやんは火星《くわせい》の看護婦《かんごふ》さんからリボンをもらつたんだよ
まあ! ほんとう……なら……うれしいけど


これぢや これぢや


テン太郎 お前《まへ》はいつかお父さんの書斎《しよさい》でこんな本を見たことがなかつたかい
どんな本です 僕《ぼく》ときどきお父さんの本を見ますから


この本ぢや どうだ こういふ絵《ゑ》を見たことがなかつたか
あッ! あつた 見ましたよ


これが ミルチス・マジョルぢや


うーむ わかつた それぢや!
お前は本を見て頭《あたま》の底《そこ》に名前を覚《おぼ》えた それが夢《ゆめ》の中にフッとでてきたといふわけぢや
きつとさうだ


お父《とう》さん ほんとに僕《ぼく》が火星《くわせい》へ行つたと思つたんですか
さうは思はんが ほんとうの名前を言《い》つたんで わしもびつくりしたよハヽヽヽヽ
ホホヽヽ


テン太郎は夢で、だいぶ火星の嘘《うそ》を頭に仕込《しこ》んだから わしの研究室《けんきうしつ》へおいで ほんとうを見せてあげやう
うれしい! 今日《けふ》みんな行かうね
いつていらつしやいませ
[#改ページ]

人間《にんげん》のヒゲと猫《ねこ》のヒゲ


テン太郎さん あんた大きくなつたら天|文学者《もんがくしや》になるの
僕なるんだ
いいなあ さうして火星へロケッ[#「ロケッ」はママ]飛《と》んで行くの


いやだい 火星に行くのは やつぱり地|球《きう》に住んでゐるのがいいよ
あら 弱虫《よわむし》の天文学者に なるのね


だつて お父《とう》さんやお母《かあ》さんのゐない所へ行くのはいやだい


ぢや 君たちも僕《ぼく》といつしよに火星《くわせい》へ行く どう?
ピチクン あんたどう
あんまり気が進《すゝ》まないな


やあい 君たちだつて弱虫《よわむし》だい
行けても 帰《か》へれなくなつたら困《こま》るわ


ニャンちやんは大きくなつたら何になるの
大きくなつても 猫《ねこ》よりほかに何にもなれなくてつまらないわ
そんなことをいへば 僕だつて犬より出世《しゆつせ》はできないや


それでもいいの 鼠《ね
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