海の中へ落さないやうにたのみますよ


テン太郎さん トマト一つたべません
トマトどころぢやないよ ロケットが故障《こしやう》かもしれないんだ
(ピピ ピピ)


あれ ニャンちやん トマトをまた種《たね》ごと喰《た》べちやつた
いいわよ トマトが生へたら地球のお医者《ゐしや》さんに治《なほ》してもらふから
のん気な連中《れんぢゆう》だな どうもロケットがおかしいぞ
(ゲロン ゲロン)


(ゲロンゲロンゲロンゲロ)
またゲロンゲロンが始《はじ》まつたわ
やッ※[#感嘆符二つ、1−8−75] 大|変《へん》だ! ロケットが故障《こしやう》だ!
早く早く パラシュートの用|意《い》だ!
(ピピィピィピィ)


どうするのよ
パラシュートを体《からだ》につけるんだ
扉《とびら》を開《あ》けたら外《そと》に飛《と》び出す用意!


(ゲロン ゲロン ダダ プップッ)
やあ大変※[#感嘆符二つ、1−8−75] 横《よこ》ふりだ※[#感嘆符二つ、1−8−75]


(ババン)
うわーい 破裂《はれつ》したい


ニャンちやん ニャンちやん
おや気|絶《ぜつ》してゐる


よし 一つ活《くわつ》を入れてやれ
(ポン)
ウーム……


あ! わたし達《たち》助かつたわ


(ブツン)
あッ!


墜落《つゐらく》だ


痛《いた》いッ


あれッ? ここはどこだ?


あれッ 君達はどうしてたの?……
テン太郎さん 寝台《しんだい》から落つこちたりして
きつとねぼけたんだよ


あゝ助かつた 夢《ゆめ》でよかつた
夢をみたんだよ
わたし達びつくりしたわ


僕《ぼく》 君|達《たち》と火星《くわせい》へ行つた夢《ゆめ》をみたんだよ
だつて僕はなんにもみない
わたしだつて 何にもみやしないわ つまらないわね
[#改ページ]

テン太郎《たらう》の報告《はうこく》


お父《とう》さん 僕ゆふべ火星へ行つた夢をみました
それはよかつた わしも見たかつたな


ピチクンも ニャンちやんも いつしよでした
わたし そんな夢 みないわ
僕ゆふべの夢はつまらなかつたの
ははゝゝ 大|勢《ぜい》で同《おな》じ夢をみるわけにはいかないよ


火星《くわせい》には天|文台《もんだい》もありました そこの所長《しよちやう》さんがお父《とう》さんを知つてゐました
エッ? わしを火星で知つてゐたか?


エヘン! オホン
さうぢやらう そこでわしの研究《けんきう》を火星で知つてゐたかね
ええ 何にもかもみな知つてゐました


月|野《の》博士《はかせ》とお父さんと髯《ひげ》の引《ひ》つぱり合ひをしたのも
えッ? それはまたどうして? ……
(フフ)
(クスクス)


火星では 高い大きなビルデングのやうな望遠鏡《ばうゑんきやう》で 地|球《きう》の出来ごとをみてゐるのです
ナニ?
そんなばかげたことがあつてたまるものか


だつてお父さん ほんとにあつたんです
そんな馬鹿《ばか》なことはない!
まあ貴方《あなた》 それはテン太郎の夢《ゆめ》の話ぢやありませんか


僕《ぼく》 夢でほんとにみたんですよ
ほい 失敗《しま》つた! 本気に腹《はら》をたてたか ははゝゝ


さあさあ 朝ご飯《はん》の仕度《したく》ができました
しかしね テン太郎
地|球《きう》から火星《くわせい》を見るのに大|望遠鏡《ばうゑんきやう》がいるとはかぎらん
小さな望遠鏡でもいいんですか


さうぢや 鏡径《さしわたし》八インチか十インチもあれば沢山《たくさん》ぢや
望遠鏡の大きさより大|切《せつ》なことがある
それはなんです


それを天|文学者《もんがくしや》は『グット・シーイング』といつてゐるんだ
これは専門語《せんもんご》[#「専門語」は底本では「専問語」]だよ
グット シーイング
グット シーイング


グット シーイング 僕《ぼく》は天文学の専門語[#「専門語」は底本では「専問語」]を覚《おぼ》えてしまつたぞ エヘン!
おやムヅカシイことを言つてテン太郎 それは一|体《たい》なんのことですか
あれ まだ聞いてゐなかつた


ははゝゝそれはね 天|体《たい》を見るには機械《きかい》にばかり頼《たよ》らないで『見るのに具《ぐ》合ひのいい調子《てうし》』にしておくことだよ
あゝ わかつた 高い山のてつぺんに天文台をつくるとか


さうだ、しかしいくら高い山へ建《た》てても雲が多《おほ》いとこぢや駄《だ》目だ
さうですね 高くて雲がなくて


さうだ 地球の上の雲はぢやまになる しかし火星の雲を見るのは これは仕事《しごと》だよ
むづかしいんですねえ…


テン太郎 火星《くわせい》に人|間《げん》がゐたか
ゐましたよ 頭《
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