どろいた


すつかり眠《ねむ》つちやつた
テン太郎さん ごめんなさいね


きみ達《たち》は、もつと火星《くわせい》の研究《けんきう》に熱心《ねつしん》にならなければいけないよ
だつてわたし ずゐぶん高い木のてつぺんに上つてこわかつたわ
まあよろしい
いや、どうも恐《おそ》れ入りました


ところでテン太郎 お前の写生《しやせい》した絵《ゑ》を見せてごらん
こんなにかけました


テン太郎 お前の描《か》いた絵はこれだ ところで
ほんとうの絵はこれだ
あらッ まるで違《ちが》つちまつた
ほんとに
おかしいわねえ


どうぢや目茶《めちや》くちやな点《てん》だつて ある距離《きより》から見ると そんなに真《まつ》すぐに見えるんぢや
ほんとうですね だから 星の運河《うんが》だつて真すぐに見えても 人|間《げん》がつくつたとはいへませんね
その通りぢや お前は呑《の》みこみが早いぞ


月|野《の》先生《せんせい》は なんとおつしやるんですか
月野|博士《はかせ》はロウエル教授《けうじゆ》と同《おな》じ考《かんが》へで 火星《くわせい》は水が少《すく》ない そこで運河《うんが》へは火星|人《じん》が大|仕掛《じかけ》の給水《きふすゐ》ポンプで水をくばるといふのぢや
ほんとかしら
うそかしら


さあ 夕飯《ゆふはん》がすんだら 今晩《こんばん》はみんなにいいものを見せてあげるぞ
あ、さうだ けふはお父《とう》さんに幻燈写真《げんとうしやしん》を見せていただく約束《やくそく》だつた うれしいなあ
幻燈
まあうれしい 早く見たいわ
[#改ページ]

火星《くわせい》に人間《にんげん》が住《す》んでゐるか


これが 火星の運河《うんが》を想像《さうざう》して描《か》いた絵《ゑ》の幻燈だ
うわあ すごいなあ
この太い管《かん》はなんでせう
これが きつと 火星の運河のある所に茂《しげ》つてゐる植物《しよくぶつ》に水を送《おく》る管だ


運河《うんが》の長さはどれ位《くらゐ》あるんです
それが大|変《へん》ぢや 何|千哩《ぜんまいる》も続《つゞ》いてゐることになる
そして時々|望遠鏡《ばうゑんきやう》で火星《くわせい》の運河が二本に見える 学者《がくしや》はこれを二|重《ぢゆう》運河といつてゐるんぢや


それは、ほんとうに二重でせうか
それはわからん 
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