反対者《はんたいしや》もある
これを主張《しゆちやう》する学者は火星にある運河の四|分《ぶん》の一が、二重だといふのぢや


お父《とう》さん 火星の人|間《げん》はどんな格好《かくかう》をしてゐるでせうね
それは分らんね 想像《さうざう》もつかん またどんな想像したつてかまはん
足《あし》や手が有《あ》るかも分《わか》らないね
だつてそんな立派《りつぱ》な運河をこしらへるんだもの 頭《あたま》や手はきつと有《あ》るわ


さうだ ニャン子のいふ通りだ とにかく何|千哩《ぜんまいる》もの運河を造《つく》つてゐるとすれば 測量術《そくりやうじゆつ》だけは発達《はつたつ》してゐることになる
ソクリョウ術《じゆつ》つてどんなのかしら
ニャン君 きみ、まだしらないのかい


ほら よくそとで三本|足《あし》をたてて 望遠鏡のやうなものをのぞいては地|面《めん》や道なぞを量《はか》つてゐる人があるだらう
ああ 分《わか》つたわ
あれだよ 僕《ぼく》なんかちやんと知つてらあ


でもね人間の力でなくても 自然《しぜん》の力でも いまここに映《うつ》る位《ぐら》いのまつすぐな運河もできるのぢや ごらんあれを
やあ
満月《まんげつ》だわ
きれいなお月さんだ


あの月がいい証拠《しやうこ》だよ 火星《くわせい》を調《しら》べるには月がとてもいい参考《さんかう》になるんぢや
ぢや 月にも 火星の運河《うんが》のやうなものがありますか
あるよ しかも 真《ま》つすぐなのもある


さあ ごらん これが月の面をとつた写真《しやしん》だよ まん中の所に真つすぐな線《せん》があるだらう
ああ あつた あつた
ほんとだわ
あれはなんです お父《とう》さん


あれは火|山《ざん》の裂《さ》け目だ 名前はアリアダウエス小流《せうりゆう》といつてゐる
あれは どの位《くらい》の長さですか
長さは百《ひやく》五十|哩《まいる》ぢや


月には こんな運河のやうなものは沢山《たくさん》あるんですか
いや 月には十|哩《まいる》以上《いじやう》のものはあまりない しかし火星の運河はみな大きいのぢや


さあ おそくなつてしまつた これで終《をは》りだ
みんな早くおやすみ またあしたね
ぢや お父さん おやすみ
おやすみなさい
おやすみなさい


さあ眠《ねむ》らう いい月だなあ
わた
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