る基準が低く、或る高いものを新人に要求する厳しさに乏しいのを遺憾に考へてゐる――』と青野氏はいふ、かういふ言葉は一見条理だつて見えるが、それは文壇機構の機微に触れる必要のない一般読者に投げあたへるにはもつてこいの言葉である、然しかうした言葉が正当に理解されていゝ時もある、それは門戸開放の文壇の場合だけであらう。仮りにも文壇への『登龍門』などといふ嫌な言葉が存続する以上、新らたに登場してくる新人の本質を守つてやることよりも、それを無に帰せようとする操作の方が、はるかに多いだらう、その意味から青野氏の言、文壇が(正しくいつては文壇人が)新人を評価する基準が低いどころか、高すぎる位だ、新人に要求する厳しさもまた充分すぎるだらう。
▼文壇は文章の上や、雑誌面だけは自由主義国だが、人間関係の上で、これ以上封建的なところはなからう、青野氏は『私など新人にたいして長らく言はゞ温情主義をとつて来た一人で、これは私の性格的なものであるが、その誤りがこの頃になつて犇々と身にこたへるのである』と結んでゐる、温情主義とか厳格主義とかいふものは、それが本質的なものでない場合、世の生き方の通俗的な方法にすぎなく
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