に転向したことは慶賀の至りだ。そして阿部氏そのものは文学に於ける頽廃、享楽面の取締りのために私設警官となつたわけである。


政変的作家
 一つの幻滅悲哀か

 ▼最近『某々氏、農民文学懇話会の委嘱により××地方に旅行』といつた文芸消息が数々と現れる、『委嘱』に依りとか『嘱託』によりとかいふ、作家活動をさういふ形で報道されたことは我国文壇近来稀有の現象であらう。これが官報に掲載され、出張旅費稼ぎでもできれば申分なからう。
 ▼作家の生活行動を、その好むと、好まざるとに拘はらず、他からの制約によつて規定されるといふことに対して、作家はもつと敏感になつても良ささうなものである、政治と作家との関係を考へてみても、政治そのものが果す理性的役割といふものは、一部の作家達がわいわい言ふほど、大したものでないことは、世界の政治史が雄弁に語るものだ。
 ▼政治は機構であつて、全体的結論を問題とされなければならない、作家は自らそれと立場を異にするところに、作家の独自な立場があるので、委嘱に依つて農村を走りまはるのもいゝが、作家はもつと意志の表現の単位としての、個人の事業といふものに執着していゝ筈である。
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