来ないことなのか、阿部氏は文章ではことも無げに書いてはゐるが、阿部氏自身そのことを本気で考へてゐるのか、どうも疑はしいものがある。更に阿部氏はつづけて『それには取締形式の整備のみでなく、一般民衆の社会連帯の観念を高めることが必要とする』とおつしやる。御もつともさまである。しかし阿部氏は考へ違ひをしてゐるやうだ。政府のとつてゐる方法は、一般民衆の社会連帯の観念を高めるために――の取締形式の整備といふ方法なので、これは唯一の方法で、これ以外に何ものもないといふことに、氏は考へついてゐない。
▼巡査講習所を出たての、ホヤホヤのお巡さんでも、社会政策に対しては阿部氏よりも、もつと具体的な意見をもつてゐさうである。こゝに良い見本がある。所謂丹羽物といはれた頽廃もので売り出した丹羽文雄氏が、あだかも自分が女性主義者でないことを証明するかのやうに、甚だ男性的な『勇ましい小説』を書いてゐることである。我々がこれまでの丹羽に期待してゐたのは、人間心理の機構の崩壊してゆく過程を、生々しく描いてほしいことであつた。ここに丹羽は頽廃物から脱して所謂阿部氏の求めるところの『社会連帯の観念を高めるために』軍事物
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