しい傾向として、作家が逸早く国策に呼応するといふことである。しかし近衛さんの肝煎りでつくらうとする新党でさへ、その政治上の一元化の内容吟味で手間どる世の中である。ましてや複雑な人間心理を扱ふ作家が、政治や政策といへば、真先にハイッと手を挙げる優等生のやうな態度はお可笑しい位単純である。
 ▼政治家と作家との懇談や、作家の国策への転化、従軍作家の労役奉仕など、いづれも一寸見には体裁がいゝが、しかしこれは政治の秩序と、文学の秩序との単なる外観上の一致であつて、作家はこのところ、この世間態のつくろひ方に醜態にすぎるものがある。


杉山平助氏に
 死ぬ覚悟の押売

 ▼婦人公論十二月号で杉山平助氏が、『漢口攻略従軍記』を『戦線より吾子に送る手紙』の形式で書いてゐる、この戦地通信は相当枚数の原稿紙を、雑誌社に手渡してゐるから、文章で飯を喰つてゐる人間が、量的に原稿を売る目的はまづ達成してゐるわけである。
 ▼さてその文章の内容にふれるが、杉山氏はそこでは、日本人の古来からの感傷性を美点だと主張し、それを高く買ふ論を一席弁じながら、巧みに己れの感傷的な文章を合理化してゐるのは心得たものだ、彼ぐら
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