り読者を釣つてきただけである。当局でなくても机上の文字で人間の生死感を簡単に片づける作家に向つて、戦場に出掛けて弾丸雨飛のもとで死んで見当[#「当」に「ママ」の注記]とまでは言はないが、毛脛を焦がす程度の戦争の迫真性でも味つてきてから作品を書けと言ひたくもなるのである。
 ▼当局が作家を戦地に招待するのも戦争に対する認識の是正を作家に求めたからであらう。当局も文化と民衆との接触がその作用の大きさに於て、見逃すことの出来ないことを認めてゐる今日、当局が今後文化人に対する奉仕の求め方も強くなつてくるものとみていい。
 ▼それはたいへん結構なことである。当局はいろいろの機会に作家を各方面に手きびしく引き廻して、第一に作家の感傷性の追ひ出しをしてもらひたい。全く作家の振り廻す国内的な感傷性位、これまでどれだけ読者を毒してゐるかわからないのであるから――。


文化宣伝の具
 英語の国際性を知れ

 ▼国際文化振興会で現代目本の実相を外人に伝へる目的で、『日本文化叢書』を発刊したことは、時宜に適したやり方だが、事業が『国際性』に立つ場合に、いやでも『英語』に依るといふ事情はこゝでも動かすことが出
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