[#「に」は底本では「は」と誤記]掲載された作品を、その月の間か、或は精々翌る月の間に批評をしてしまはなければならないなどといふ、考へてみると甚だ滑稽な現象を産んでゐる、これは出版ジャナリズムが批評家に与へた単なる時間的な課題に過ぎないのである。
 ▼然も多くの批評家達は、さうした現象に少しも疑ひを抱かうとせず、次々と吐き捨てるやうに、新しい作品から、新しい作品へと批評を移してゆく状態であるため、読者にとつては目まぐるしい許りで、どの作品を読まうかなどといふ選択を批評家から与へられるといふことが至つて少ないのである。
 ▼最近に至つて漸くこの著作物の印象批評と刹那主義的新刊紹介の傾向が薄れだしてきたことは喜ぶべき現象である、作家にとつてはこれらの批評家の月評的態度といふものは、有り難いやうな、又迷惑なやうな反感があらう、一つの作品が優れてゐると呼ばれるのはその作家の創作態度に、現実的根拠が深いものがあるからで、したがつてその作品を発表したと同時に、批評家の駈け足的態度で評価が完了してしまふやうな性質のものではなからう。時世は長期抗戦時代である。作家に於いても、またその作品の支持者である
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