歴史の証明の仕方を、もつとも身近な現実から出発して企てることであらう、伊東氏が風俗画家を何故に志望したかといふことは、その理由を本人の口から聞いてはゐないが、その理由は判然としてゐる、一人の作家が、いまこゝに山水花鳥と人物との何れを自分の将来の仕事に選んだらいゝかといふ場合に当面した時を想像して見たら判る、非常に人間的な人が、その人間的なる故に、花鳥や山水に愛着を感じて、その方面にすゝむといふ場合もあるだらう。しかしこの場合に、問題をなるべく素朴に、簡単に考へて見れば、人間、人物の好きな人は草花より人間の方を選むのである、
 花鳥山水と人物とを較べてみると、残念ながら人間の方がどうやら花鳥山水よりも社会的な存在であるらしい、伊東深水氏が幼少から所謂人間苦労をしてきたといふ事実やその出身地が東京市深川区西森下町に生粋の江戸児として生れたといふことに思ひ到れば、江戸、東京と称されるところが如何に人間なるものの巣に等しい都市であるかといふことと照らし合して、人間の中に生まれ、人間の中に育つたものが、まづ第一に人間理解に於いて、魅惑的であるかといふことは肯けるであらう、同時に伊東氏の経歴がそれ
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