方であつた。それは先を切つたちび筆で描いたやうなボキ/\した枝や葉の描写で何ら松の木のリアリティを捉へたものではない。そしてたゞ影絵のやうな黒い松林の地に月の反射を受けた軟い白い波がひた/\と打ち寄せてゐる。空には白い月が大観一流の暈しで円くかゝつてゐる。松の描写は粗雑である。だが光に対する感度の高さは僅かなスペースに非常な感動をそゝるやうな仕組に描かれてゐる。その描き方のコツの良さは第一に一般人の程度の低い感傷さを生理的に捉へてしまふ。言葉をかへれば大観の普遍性を捉へる歳の劫を経た力量が隠されてゐるのだ。それは長い年月迷ひぬき、苦みぬいた揚句の通俗性への勝利である。そしてこの種の解り易く、野心の内面的であつて表面的でない絵はよく売れるのである。それに較べて例へば小松均先生の『氷見鰤』は二尺五寸横物に殆んど画面一ぱいに逞ましい胴太の鰤を無雑作に転がして描いた絵これなどは画面の位置を考慮するでもなし大衆の感傷性を上手に捉へる色彩を選ぶでもなし、全く非妥協的な描き方のものである。鬼才小松均先生の芸術的な良心はこゝでは商品化の資格を失つてゐるのだ。
 之程にも一つは売れる要素を具へ、一つは売
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