術の戦士としての小杉放庵もまた、時には小休止する。現在がその期間であるかのやうな印象をうける。ただ興味のふかいことは、小杉放庵の呼吸ぬきは、「本朝道釈」のやうな作品を生み、この呼吸ぬき作品がなかなか風味が良いのである。
 横山大観にはこの呼吸ぬきで妙味ある作品を描くことはできない。大観は仕事の感情を盛り上げてゆく、今度の陸海軍への報国的制作、海と山とに因んだ二十点などは、さうした感情状態でできあがつた作品である。放庵には感情を盛りあげてゆくといふ時代は、既に終つたかのやうに思へる。感情を盛りあげて制作してゆくが、その頂点において横に逸脱するといふことができる。ただこの逸脱が単なる逸脱に終らないといふことは、その制作を不断に反覆してゆくといふ、非常な精力的な仕事ぶりが値打があるのである、もし放庵にして作品が少なかつた場合には、彼の仕事は作品が多いといふ場合よりも値打が附くであらうか、それは問題なのである。放庵の場合は作品が多いことが、彼の価値の一部といふことができよう。彼は小休止するときも、筆を停めない、そして「本朝道釈」のやうな、呼吸ぬきの、肩の凝らない、それでゐて内容的には非常に凝つ
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