静的に固定的であり、何の水らしい伸びもない筆者の観念の硬化状態で描いてゐる、水の描写はその方法を徹底させてゐる、ところで水をとりまくところの樹木を線の交錯的な方法で、動揺的に描いてゐるといふ、一つの矛盾を発見するだらう、この矛盾とは、俗に水は流れ去るものであるといふ意味で、樹木や山よりも動揺を与へて描くといふことが普通であるが、その方法を採らず水を静的に描いて、それをとり囲む樹木をそれよりも確かに動的に描いてゐる、この桂月氏の矛盾の方法は、『長門城』の画面を不思議なことにはその方法のために、『水』が却つて激しく動き流れてゐるといふ効果をもたらしてゐる。
早く飛んでゐる飛行機を映画化すた[#「すた」に「ママ」の注記]めに、飛行機を固定さしてをいて、背後の雲を早く移動させるといふ映画のトリックを想ひ出したらいゝ、自然の真を衝くためには、嘘をつくことをゆるされるといふ場合はさうした場合を言ふのであらう、そこにも桂月氏の曲者的なところがある。『海物』では二種類の珍妙な魚を描いてゐるが、魚の肉の痩せた部分と、肥えて充実した部分の、一種の段落ともいはれるべきものが、表面の魚の皮を透して描かれて、
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