事である。問題はバックの銀と前に描いたものとの反映の仕方が充分でなかつた。黒と銀との関係より、黒と茶との関係の方が成功してゐたし、生きてゐた。総体的に今回は仕事が硬くなつてゐた。間宮正[#「間宮正」に傍点]氏――『春郊』二つの丘の中に引かれた線の方向の苦心が面白い。然し成功とは言へない。船田玉樹[#「船田玉樹」に傍点]氏――明瞭、空白、は好感がもてるが、画面に塊りが欲しかつた。部分的描写を全体的に高めるといふ方法に欠けてゐた。中江正樹[#「中江正樹」に傍点]氏――『風花』美しい感覚の持ち主である。このまゝ新しい色の発見に進むこと。風に折れまがつた葉と、折れまがらない葉との関係がはつきりしてゐない。風の吹く方向に神経の細かさが不足してゐたためであらう。久保田善太郎[#「久保田善太郎」に傍点]氏――『陶房』カマドの上に陶器を描いたのはやり方が突飛な割に少しも不自然ではなかつた。配列は一考の必要がある。柴田安子[#「柴田安子」に傍点]氏――『馬市帰路』光りの落ちてきかたは興味がある。子供の頬へ当つた光線は的確であつた。画の出来不出来を別にして、作者の思索生活が出てゐるのは観る者をうつ。井関雅夫[#「井関雅夫」に傍点]氏――『風景』洋画的テーマは悪いとは言はないが、こゝまできたら、洋画への追従でなくもつと徹底してほしい。日本画の行くべき路へ。藤田隆治[#「藤田隆治」に傍点]氏――『歯科室』画面に対象の生活がでゝゐるのは実力があることを示してゐるが、手前のものを突込んで、遠方を逸してゐるのはよくない。塗り方の粗雑さは感心できない。田口壮[#「田口壮」に傍点]氏――『女』直線と曲線とのよき組み合せ、然し色が商業主義的な傾きがある。つまりポスター其他色刷的実用美術的な弊がある。バックは成功してゐたが。福田豊四郎[#「福田豊四郎」に傍点]氏――『華氷』冷めたい氷といふよりも、暖い氷を描いてゐる。それは作家自身の世界観、人生観だから、氷をまた火のやうに描いても一向差支ないことだらう。たゞ氷に閉ぢこめられた花の感覚的位置が明瞭でなかつた。『月と小魚』が好きであつた。泳いでゐる小魚が一尾づゝ己れの影をここでは魚自身の観念体としての影を、ひつぱりながら遊泳してゐる詩味は凡手の到底着想し得ないところであらう、水草をもまた生きたものとして生活させてゐる。ただラセンに曲げて描いた水草は常套的であるし、新味を感じられない。柳文男[#「柳文男」に傍点]氏――『水辺』鯉の鈍重感迫力はある。部分的批評すれば、白い部分はあるまゝでいゝとして、魚の周囲を水の中だと思はせる描法が絶対的に必要である。藤田復生[#「藤田復生」に傍点]氏――『気象台』明析な態度、色の新しさの方向はいゝが、立体感の欠けてゐる点が難、テーマは甚だ立体的だが、描写力が併はなかつたのだと思ふ。島田良助[#「島田良助」に傍点]氏――『女像』不思議な神経をもつてゐる作者である。例へば女の坐りの良い腰部や、重さうな肩などに魅惑的な神経があるのがそれである。色彩は総じて良くない。特異な神経は大切にして欲しい。大石哲路[#「大石哲路」に傍点]氏――『小児』陶器製のやうな小供その覗ひはわかる、物質感がでゝゐる。恩田耕作[#「恩田耕作」に傍点]氏――『葉蔭』青い色や、犬の眼は生きてゐる。犬は細い感じはでゝゐるが痩せた感じがでゝゐない。作者がもしこの種の犬は細いのであつて痩せてはゐないなどと抗弁されたら評者は一言もないが。青木崇美[#「青木崇美」に傍点]氏――『保護樹』繩でしばられてゐる樹、保護の名目で自由を束縛されてゐる人間も少くないから、この保護樹はさうした人間的なものを感じられる。描きかたでは画面のとりかたはいゝが、地面の工夫が足りない。山崎隆[#「山崎隆」に傍点]氏――『海水魚』いゝ作家である。魚達の列、四つの魚の集団が四つの生活を水の中で営んでゐる。茶色の岩の上の写実性はすばらしい。この作者がもし大作主義でばかりゆくとしたらよくない。小品もたくさん作ることだ。この人の小品の力量を見たいものである。

 新日本画研究会には、福田豊四郎[#「福田豊四郎」に傍点]氏、吉岡堅二[#「吉岡堅二」に傍点]氏、小松均[#「小松均」に傍点]氏といふ日本画の新しい方向に対する真面目な探究者が加はつてゐるから、特別に指導理論をふりまはす人がゐなくても、これらの人々の作品が語る論理的なものは決して影響が小さいものではない。この三人は決してこの会の代表的作家といふ意味で言つてゐるのではない。この三人の作画の型は、この研究会内に止まらずに、広く日本画の三つの心理的な型として、福田、吉岡、小松といふ人の作品は重要な意義がある。誰でも作風の上ではとにかく、心理的にはこの三人の型のうちのどれかを通らなければならないからである。
 小松均
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