さう批評をしないで、科学的な観点からの具体的な評を求めたいものである。画中の人物のアクションが、作画的固定性を超越し、その人物が次の動作に移動するといふ、絵画上の叙述性を示すと、すぐに文学的であるとか※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵的であるとかいつてケナすのは誤りである。『川辺』や『野路』など肉の薄いものではあるが、一種の凄惨なリアリティをもつてゐる『野路』の子供達の表情に痴鈍な美がある。
○岡田謙三[#「岡田謙三」に傍点]氏――色彩に対する感覚的な尖鋭さはゼロと言つてもいゝ、色彩の根底に近代的な卑俗性が流れてゐる、色彩はあくまで純粋でなくてはいくまい、福島金一郎氏の作品の色彩と比較したら判るだらう、岡田氏は勉強家だといはれてゐるが、感覚の鈍磨は将来のがれることができまい。
○長谷川利行[#「長谷川利行」に傍点]氏――彼は乱作家である、しかし自己主張もこれまでに徹底すれば、少くも憎むことはできまい、何か一種の風格を場中に漂はしてゐた、観念の分裂と痛々しく闘ふ生活的な画家といふところだらう。
○棟方寅雄[#「棟方寅雄」に傍点]氏――『人々』北方のインテリゲンチャ[#「インテリゲンチャ」は底本では「イテテリゲンチャ」]のやうな青年がならんだ絵だ、この人の作品には何時も強いヒュマニティがあつて好感がもてる、若い世代のリアリストとしては画風の上では古いが、作意の上では新しい。
○北川民治[#「北川民治」に傍点]氏――『メキシコタスコの祭日』其他で相当楽しませてはくれたが、この画風で日本の現実を描き得たらすばらしい、然しまづそれは不可能に近い、形式といふものは、そこに内容的に盛りあげる現実の種類によつて、最初の形式のまゝで保ちきれないものである、氏は旅行者であるかぎり、メキシコの現実を生々しく描くことが出来た、(それは真個《ほんと》うのリアリティとしての描法でなく、異国主義的見方としての写実性である)然し日本へ帰つてきた北川氏は、その瞬間から異国主義者を停めねばならない、旅行者を停めたのだ、色調や、画風の一切の組立を新しくしなければならない立場に立つ、外遊してきた先方ですぐれた絵を書いてきて、日本に帰つてきた途端に一切を失つた画家が少くない、環境に沈潜して、客観的視野を失つたためである、この異色のある自由人北川氏に、更に異色のある態度の確保をこそ望みたい。
○伊藤継郎[#「伊藤継郎」に傍点]氏――描く対象に対する偏愛はかまはない、しかし色調を固執することは誤りである。対象に依つて色彩は必然的に変化してゆくものであるし、それを怖れる必要はない、前回のものにこの種の固執があつて、粗雑な画面の扱があつたが、今回の出品画にはその危険は去つたやうだ、『鳩を配した裸婦』の写実力は明日へのたくましい進発を約束したものがある、仕事は困難になつてゆくだらう。然し洗練された自我を盛りあげるために、画風も自分のものを既に樹立した感じである。
○竹谷富士雄[#「竹谷富士雄」に傍点]氏――特待である、『夏』『海の女』では『夏』に詩味豊かなものがある、突込んである割に、映えないのは作者の心理に停頓があるからだ、色彩の重ねの効果を計画の中で軽蔑しすぎた感がある、近代感覚としても先走つた軽跳なモダニズムを排して、重厚で暗鬱な時代の色調を表現してゐるために、実感的である。
○福島金一郎[#「福島金一郎」に傍点]氏――他人は福島氏を目してボナールの画風の追求者であるといつた風に解してゐる、然し私はさうは思はない、既に画風に独特なものが芽生えてゐる、熱帯地方の蝶の翼にみる色彩の純粋さを思はせる美しさがある、その意味では福島氏は観念を美しくカケ合した画風であるし坂本繁二郎氏の場合には、観念を美しく叩き込んだ画風と言はれるだらう。もし福島氏にして強ひて新しさに行かうとせずに、自己のために朽ちるといふ作画態度であつたなら、もつと度胸のよい仕事と、独自性が生れる筈である。
○吉原治良[#「吉原治良」に傍点]氏――『窓』我々を目醒めさせるやうな刺戟的な態度ではないが、却つてさういふ温和な方法の中で、我々を捉へる魅力的なものをもつてゐる、新しがるためにシュールリアリストになつたのではない――といつた真剣味を吉原氏の作品から受け取ることができる。
○浪江勘次郎[#「浪江勘次郎」に傍点]氏――『漁楽』『蒼天』等日本的なテーマを描いてゐるが、その企ては判るが既に仕事が限界的であつて、明日に期待ができない、何故といふに、テーマが日本的であることは大いに賛成だが、テーマを取り上げる前に、テーマに対する抽象的な理解を割切つて、科学的な分析を与へなければ、筆をとつてはならないからである、日本的テーマはそれを描くものが近代日本人であり、それを観る者が近代日本人
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