としての光りに就いては研究課題として面白いし、また須田国太郎に就いては言ひたいことが沢山あるが長くなるので次の機会に譲る折を見て須田論を試みたいと思ふ。
吉原義彦[#「吉原義彦」に傍点] リアリスト吉原の作画態度や、今度の独立への出品画に就いては、もつと採りあげて問題にしていゝ。殊に若い画家達の間には、リアリズムに就いてかなり関心を深めてその方向に画風を進めてゐる人が少くないだけに、吉原の仕事の進め方の検討は意義がある。絵画上のリアリズム論は茲では措いて、私は『オルガに扮せる原泉子』では、まだまだ手も足もでないリアリズムを感ずる。ブルジョア的写実主義者の作画上の自由性と新しい写実主義者殊に何等か仕事の上に社会性を附与しようと企てゝゐる、画家の作画上の自由性とは、それぞれ制約するものがちがつてゐる。吉原の場合ブルジョア的な自由は欲しないだらう。だが見給へ。ブルジョア的な自由主義画家がいかに勝手にふるまつてゐるかといふことを。その意味に於いて吉原はもつと大いに勝手にふるまつて良い。吉原の絵を見ると建設的要素は多いが、破壊的要素が少ない。然もこれらの要素を吉原は絵の上では個人的立場に解決してゐる。もつとリアリズムの守り手として、旧来の絵画上の諸秩序の打ちこはし手として吉原の創造性を発揮してもらひたいし、若い後進のためにリアリズムの基本的方向を示してやるべきだ。
第十一室
田中佐一郎[#「田中佐一郎」に傍点] この人は気迫の弱さにありながら、殊更に強い絵を描かうと努力してゐるといふ感がある。だから自然な素直なあまり無理をしない態度のものとかへつて人柄がでゝ美しいものがある。『牛』などその意味からも好感をもつことができる。
中村節也[#「中村節也」に傍点] カラーリストらしくふるまつてゐるが事実はカラーリストとしては認め難い。仕事は出鱈目なところが多いが、絵のまとめ上げの点や効果を心得てゐる点では隅に置けない『池鯉』など殊にさうである。
第十二室
多賀延夫[#「多賀延夫」に傍点] 『石など』 この絵のやうな画風をどんどんと追求して行つたら独自的な世界へゆくと思ふ。態度も素朴であるし、対象の理解も複雑である。石と鉄片の構成は面白いし、殊に石とか鉄片とかいふ物質に関心をもち、これらの粗雑な物質の表面の凸起面の描写に苦心してゐることは判る。題材は良し、残るところは描き方だけである。
三岸好太郎[#「三岸好太郎」に傍点] この室には三岸の遺作が列んでゐる。『貝がら』とか『海と射光』とか『海洋を渡る蝶』といつたシュールリアリズムとしての彼の題材のものに矢張り好感がもてる『立てる道化』といつたクラシック張りは三岸でなくても誰でもやれる仕事である。
クラシックとモダニズムとの矛盾の児と彼を呼ぶことに異議があるまい。もう少し彼を永生きさせてをいたら相当面白い仕事をしてくれたと思ふが、中途半端な仕事で夭折したことは惜しい。彼は好んで蝶を海の上に飛ばせる。それは彼の近代人としての不安感の表現である。
ダリの頭にヱルンストの尻尾をくつつけて自己の物と主張してゐる風な画家が少くない折柄、三岸のものは人柄がでゝ気が置けなく見れて良い、やうやく少しばかり彼の独創性が加はりかけてきたのに惜しいことをした。私は彼の絵は好きでない。才能が好きである。
第十三室
大野五郎[#「大野五郎」に傍点] 『女と』と『朝』では前者の大野らしい詩のある絵の方を好む。スポーツマン[#「スポーツマン」は底本では「スホースマン」]の朝の充実した感情を描いた『朝』では手堅い仕事ではあるが試みの域を出てゐない。『女と』では構図の上にも、色感でも、どこか伸々とした大野らしいところがあるし、一種の親しみぶかいユーモラスを感じさせる。どんどんと気儘な絵を書いてもらひたい。彼の構へ方は良い。
浦久保義信[#「浦久保義信」に傍点] 『花と駄馬』では坂路を鉄片や針金らしいものを積んだ馬が喘ぎながら登つてくる。野では花を踏みにじつてゐるといふ絵である。テーマは古い、然し描写の近代性の点では浦久保の仕事は独自的な新しさがある。馬の脚元に花を散らしたものは観る者の感傷性を唆るだけで、テーマの上では甘い。だが前にも述べたやうに、浦久保義信には特殊な色彩への感能があり、線の奔放性と、色彩の激情性を特に私はかひたい。『夜店』が彼の本質的なものだ。『花と駄馬』それに次ぐ、他は動揺の作だ、浦久保の絵あたりを見て始めて新しい『独立展』を見たやうな気がする。福沢一郎にせよ、浦久保義信にせよ、中間冊夫にせよ、また須田国太郎にせよ、絵の上にある共通した突きつめたものがある。それが一つの凄愴感となつて何れも訴へてくる。これらの自己に甘えてゐない作家たちの絵は何時の場合にも周囲を
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