表の自由性にある。アンデパンダンを何処かで企てゝゐるといふ話もきいたが、今の処ノバあたりでアンデパンダン的意義を極度に発揮して欲しいと思ふ。
 だが、一寸こゝで皮肉を言はして貰へば、この展覧会にかぎらず画家はあまり、カンバス屋と絵具屋に許り儲けさせるのもどうかと思ふ。私はこの際ノバ展辺りでもむやみに油絵具を画布の上に消費することをやめて、絵具を節約して良い絵を描いて出品して欲しい。絵具節約論をこの際、この展覧会に限らず多くの展覧会の出品者に希望する。
 個人評を二三試みれば、鶴岡政雄の三点「移転」「偶像」「リズム」このうち「移転」は引つこしを書いたものだが私はかうした傾向や「リズム」などから、さつさと作者は移転して欲しい。「移転」は描く対象の常識的理解を一歩もでゝゐない。如何に描写の奇をねらつても、結局覗つてゐる処は一般的なところに落着いてゐる『リズム』は丸、三角、螺線、あらゆるものを横長く組合せたものであるが、その画は右から左に走るリズムであつても、観る者へ何のリズミカルなものを訴へてゐないそれよりも『偶像』の仕事を支持したい。この作家の一番問題となるものは、この人の抱いてゐる色といふものに対する美学的な立場である。あの色をもつてリアリズムの色とするのは賛成できない『美しい色』といふことの素朴な理解に一度立つて、更に真実の美の色を創造してほしい。赤や青を軽蔑する画家は永久に救はれることがないだらう。
 寺田政明 この人はかうしたリアルな傾向で一時代、絵の技術的方面をやつたら、それこそ弊履を捨てるやうに斯うした傾向を捨てゝ、リアルな作風でゆくべきだ。自分の才能が惜しかつたら、リアリズムをとるべきで、画壇では、立派な、良い才能をもちながら『写実』(広義な意味で)を軽蔑してゐるために、その人の良い才能を殺してゐる人が実に多いことは残念である、寺田の絵は描く対象に就いての『感動のしかた』が実に芸術家的である点、材料がプロレタリア的なものである点、しかし『貝殻』『イカ』『ランプ』『馬の骨』とか一つの題材に少し執着しすぎる、執着することは仕事が観念的になつてしまふ前触のやうなものである。大いに一作毎に、負けるか勝つかの丁半賭博的飛躍をやつてほしい。この人の才能はさうした飛躍をやつても間違がない『おたまじやくし』を賞めたい。この絵には見た眼がきれいでも、色の常識的選択に終つてゐる。ただこの絵の動きに野心的なものがあつて好ましい。
 靉光……といふ人の小品『裸婦』『馬』『人物』など何か錦絵風な筆法や『馬』では古来の『絵馬』を思はせる。ただこの人は線の稚拙さといふことに甘えすぎていけない。技術をもつてゐる人であるから、強ひて稚拙に描く必要がない。アンリー・ルッソーの稚拙さは、決して稚拙さを売り物にしてゐない切実さがあつて良いので文字の世界では、ノイリップといふ小説家があつて、ルッソー的素朴さに共通するものがあるが、技法の稚拙といふことは、たとへそれを方便とするとしても良くない児童画をよく画家が参考にしよく子供の技法をとり入れてゐる人があるが、大人のくせに、子供より下手に書く必要が少しもないだらう。靉光の場合のこの稚拙さは、主として作者の心理的なものからきてゐるが、心理的なものつまり世界観の問題としても、かなり意義がある。第一作者は若い人である筈だ、年齢的若さの究極的な発揮、この一本槍で押していつたら、年をとれば完成されるといふことになるのではあるまいか。この作者は心理的世界に於いて老いこみたがるのは良くない。『裸婦』の方がずつと屈托のない自由な作意が見えて良いし、この作家が自己の独特なものをつくりあげようといふ熱意には無条件に賛成である。

    白日会展

 笹岡了一……の真面目な態度は美しい。『二人の裸婦』は画面の裸婦を明るさ、つまり白で締めて効果を出してゐるに反して今一方の裸婦『無題』の方は暗さで画面を締めてゐる。画のやかましい技術の上で見たならば、あるひは前者の明るさで締めたものゝ方が絵らしいかも知れないがこの作家の将来の大きな路は後者にかゝつてゐる。この絵の陰影で締める効果はよくこの作家の哲学的質を生かしてゐる。線や形や構図に観るものに押しつけがましいもの『つまり特対性を』与へてゐない点が、この作家の偉さである。そして我々をこの態度にしたしませる、敷物や裸婦の描法に動的なものがあることは現実の動きと一致して見てゐて効果的である。ただこの作家に不明瞭なものゝ解決を『二人の裸婦』のやうな明瞭さに到達し解決しないで『無題』から一歩前進してほしい。
 永井武夫……白日会の中から近代人は誰れかと選んだら私は永井武夫を指す、この近代性はちよつと他の展覧会にこの人ほどに、健康な近代性をもつた人は珍らしい。実際いふとこの位の近代性はすべての画家が
前へ 次へ
全105ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング