方としても、突然何の前触れもなしで、私から公開状の形式で呼びかけられるといふことは決して良い気持のものではありますまい、しかし私はいろいろと熟考した結果貴方個人に宛てゝ、この形式で書くことが、もつとも穏当のやうにも、また現在のところこれがさまざまな表現の形式のうちで、最良のもののやうに考へましたので、この公開状を書いてゐるのです、これを公開状形式にしたことに就いては、問題を貴方対私といふ対個人関係から、出発させようとしてゐるからです、公開状といふ公衆性をもたせましたのは、この問題が、決して私信に停まるべき性質のものであつていけないと考へたからです、一つの社会問題として批判を仰ぎたいといふ目的からです、
 この公開状は場合に依つては、問題が思ひがけなく拡大する性質を帯びてゐると思ひます、またその反対に、小熊秀雄と称する詩人で評論家である一私人の単なる妄想として、一笑に附されてしまふかもしれません、私はむしろ後者として、私の一妄想として、問題が縮小され、雲散してしまふことを望みます――但しそれは全くさうした事実がなく、真個《ほんと》うに私が精神病患者であつた場合の帰結であり解決であります、もし私の見解が正当であり、私が妄想患者でなかつた場合には、問題は社会正義の問題として保留されるでせう、
 一つの事実が、正しいか、不正であるかといふことに就いてその事実の性質が、個人性を帯びたものと、社会性を帯びたものと二種類あるでせう、後者の社会性を帯びたものは、あらゆる場合に於いて、正邪を明瞭にしてをくといふ、人間的義務を生ずるでせう、私はこの公開状発表によつて、まづ人間的義務を果さうとしてゐるのです、つまり『問題の提出』といふ最小限度の義務を果してゐるのです。貴方が私のこの公開状を読んでも、何等人間的な義務を感じにならない場合には、この公開状を黙殺なさることもまた貴方の自由です。
 さて私がこの公開状を書くようになつた事情を語りませう、橋本明治氏よ――貴方は小熊といふ人物を御存知の筈です、それはたつた一度ですが、私は貴方のお宅をお訪ねして、貴方と色々とお話ししましたから、私は貴方の人柄風格も知り、また作品も系統的に調べてもみました、そして貴方の作品の支持者でもあるのです、また将来もさうでせう、さういふ意味からも、こゝでこの公開状を書かないでは気が済まないといふショックも、今回うけ
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