鯨油蝋燭よりもつと立派なものであつた、村会では燈火のない村民の各戸へそれを一本宛配給した。
 次いで村会は開かれた、議題は『旦那を風呂から上げる件』であつた、今度は若い無産派議員の意見で、水汲隊を解散、之を焚木隊に編入、一切釜に水を加へず、さかんに火を焚きつけることに可決した、それを実行に移した、旦那はいつぺんに釜から飛び上り、裸の儘で片足の足の裏を両手で掴み、ふうふう、ふきながら、片足で村中をとび廻つた。

  一婦人の籐椅子との正式結婚を認めるや否や

 ある婦人が、某青年と恋愛に陥つた、当時青年は失業中であつて、何等の経済的な力が無かつたために、婦人はその青年との結婚後の生活に不安を抱き、この事に関して、之を或る親しい一小説家の処に、相談のために彼の下宿を訪れたのであつた。
 婦人は下宿の小説家の部屋に、足を一歩踏み入れるや否や、其処に金文字の洋書、小説評論集の類と、立派な籐椅子、机を発見し、殆んど本能的反射的に斯う言つてしまつた。
『突然ですけれど、妾、あなたと結婚をしたいの、それで今日御相談にあがつたのだわ』
 部屋の中の状態では、彼女の恋人より、この小説家がはるかに経済力が
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