いところに進んで行つた。
 歌につれて雛太はお座敷着の裾を両手でつまみ、それをめくり上げながら次第に白い脛を現していつた。
『勇敢にせんか、敵前ぢやぞ』
 水は膝頭よりだんだん深くなつていつた、途端に雛太は白い脛を飜しぺたりと坐り、わつと泣き出した。
『旦那、あなたが、浅い河[#「浅い河」に傍点]を踊りなさいよ』
 半玉は手にしたハンカチを客の顔に投げつけた、客はムット怒つた顔で怒鳴つた。
『馬鹿ッ、上官に反抗するか、上官は敵前渡河は馬に乗つてやるもんぢや―』

  村会の議題『旦那の湯加減並に蝋燭製造の件』

 電燈も、飯米も、肥料も、種子もない。抽象的な言ひ方をすれば、百姓だけがゐる村へ、都会から××政党の農村視察の旦那が訪ねて来た。
 柔らかい、白い手の平を愛嬌よく振りながら、旦那の姿が、村へ入る峠へ現れた。村長、村会議員、青年団、処女会、子供、飼犬、等、村の土臭いもので、足をもつてゐる、すべてのものが出迎へた。もし旦那の所属してゐる政党と、村との関係とを説得することが出来たら、熊蜂や、蚯蚓や、山雀も出迎へに引出しただらう。村長の気持を打ちあければ、畑の物や、山の木の葉をさへ、旦
前へ 次へ
全186ページ中97ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング