。出獄した彼はこの考案を金にしようとしたが、思ふやうにいかず、前科者の故で職もなく、再び生活に窮した彼は、癇癪を起し、彼にとつて最後的な生活方法である忍びの術に還つたのであつた。
 三犯目の年貢を収めて、彼はつい昨日刑務所を出た許りであつた、彼の刑期中に誰の手からともなく、彼の考案とそつくりのブリキの舟が縁日に売り出されてゐるのを、彼はいま発見したのである。
 盥の中の三艘の舟は忙がしさうに走り、折々船端を打ちつけ合つて、盥の岸に停つた、夜店の玩具売りの男は、一刻も安息をゆるさないといつたふうに、指で邪険に舟を岸から突き離した。
 彼もまた突き離されたやうに、夜店の人の群から離れて歩きだした。
 今度も刑期中に彼は三種の考案をしてきた、一つは『自動食器洗ひ』で他は『地引網の浮子《うき》の改良』と『魔法の折紙』と彼が名づけたものであつた。魔法の折紙とは、一つの基本的な折方から出発して、様々の形に三十七種まで麒麟やら、扇やら、機関車などに変化するもので、彼は獄中で差入れの塵紙を根気よく折り返して考案したのだ、発売したら子供達が喜びさうなものであつた。『自動食器洗ひ』は、ハンドルを廻すことで
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