判つた。
勿論親たちが彼女の裸になつてゐることは知らなかつた。
研究生がさつぱりあつまらず、それになにかにと経費を意外につかつてゐたので僅か三十円の金であつたがとうとう彼女へは支払へなかつた。
蘭沢を始め人々は、彼女の裸を散々絵筆で突つき廻した揚句金を払はないなどゝいふ行為をこの上もなく罪悪と感じた。
――神よ我々を罰し地獄におとし給へ。
仲間はかく内心にさけび、そして悲壮な顔をした。
しかし私と秋辺とは彼女の羞恥心をうばつたことを、彼女への大きな報酬と信じてゐた。
そして私は、そのお麗さんを描いたもの、その一枚の裸婦の画題を『未来派万歳』と命名したのであつた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
憂鬱な家
この一篇をマルキストに捧ぐ
(一)
屋根の上の物音、禿鷹のやうに横着で、陰気な眼をした、あんまり飛び廻つて羽の擦りきれた鴉の群であつた。
こ奴等は、私の家の上で絶えず仲間同志争つた。
私はジット室の中に閉ぢこもつて、この屋根の上を駈け廻る物音を聞いた。不吉な鳥達が、黒いあしうらで跳ね廻つてゐることを知ると、私はたいへん不快な
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