人の恋愛は、その最後の土地まで、馬車を疾走させるのでないか、などと彼は友人の遅々とした遊びごとにいら/\と気を揉んでゐた。
(二)
水島が毎日のやうに、彼の下宿に訪ねてきては、嘆息をした。
その姿は耕作もせず、ぼんやり鍬に頬杖をしてゐる農夫のやうなものであつた。
――収穫をどんなに夢想しても駄目だよ、君は鍬を動かしてゐないぢやないか。
事実水島の態度は『雲の上の花園』をさまよふ園丁のやうなものであつた。
夢を見続けて、実行といふことを侮蔑してゐた。
――恋愛といふものは、君等のやうに、長い間楽しめるものぢやないんだ、時日を要するといふことが既にもう失敗だね。それに女などといふものは、非常に敏感ですぐ冷静になりたがるものだ。だから何より女を絶えず興奮させてをくといふことが大切なことだ。
と――彼は煽動した。
水島も、内心あまりに遊びすぎたことを後悔した。そして結局女から何物をも得てゐないことを考へ、寂しがつた。殊に女をすつかり訓練してしまつたことが、既に救ひのないことだと観念した。
――随分愉快に楽しんだよ、このまゝ二人が別れたところで、僕としては充分に遊び
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