ッとした、ひろげられた味瓜畑は、その娘さんの白い両手はいつの間にか男の茶色にたくましい指と変り、だん/″\と娘さんをそこの夜露のいつぱいしめつた草原に夢のやうにしめつけてゐた。
はれやかな季節に生れでた児供のやうに、男と女は草原から軽快に立ちあがつた、でも男は女の気持をはかりかねて、どんなに心づかひをしたか知れなかつた。
『明日も、ゐらつしやらない? 味瓜を盗みにさ、をどりがすんだら妾毎晩来てよ』
『あゝ、来てもいゝな』
『でもわたし、明日からもうあなたとは遊ばないわ』
『あゝ、遊んで貰はなくてもよいよ、あすからはどんなに沢山味瓜を喰べたつて止《と》めやしないから』
男は無造作にかう言つたが、どきんと激しく胸をつかれたやうな思ひがした、自分自身が少しも女に対してざんげをしなければならない、醜い過去を持つてゐないことを心強く思つた。
『僕だつてさうだよ、明日からあなたは処女ぢやないんだらう、だから、これまでよりも瞳に太陽がキラ/\としみるんだ』
『名前もなにも聞かないで、あなたは別れようとするんでせう』
『それは卑怯でもなんでもないよ、だから明日の晩もこゝに味瓜を喰べにきたらいゝん
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