、貴方はどのやうなお仕事をしておいででせうか、一応承つてをきたいのです―』
すると彼は
『私は医者です―』
と無愛さうにいふのです
『どこか病院にでもお勤めで―』
『いゝえ、私は臨床医ではありません、なんと説明致しませうか、一言でいへば私は社会学的立場に立つてゐる医者です、ある肺病研究所に勤めてをります―』
といふのです、彼は普通のお医者とはちがふのでした、検温器を病人の脇の下にはさんだり、胸をたたいたりはしないのです、日本国中にどれだけの肺病患者がゐて、それがどんな数字的な割合で、殖えたり、へつたりするか、それを調査研究する医者であつたわけです。
この医者は、最初をそろしく馬鹿丁寧に私の議論を反駁始めました、私はそれに輪をかけて馬鹿丁寧に答へたり、切り返したりしましたので、彼は焦々始めました。ついにかういふ言葉を議論の中に挾みました、
『失礼ですが、あなたはもつと自然科学に就いて、お調べになる必要があります―』
と私にいふのです、『お調べになる―』とはこゝでは明らかに『勉強しろ―』といふ意味なのです、この辺から二人の議論はだんだん丁寧さを失ひ始め、感情的になり始めました。
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