いのかしら、こんなに沢山あるのにね、盗んだのだから、口にいれるのがあなたは怖ろしい気がしてゐるのでせう、臆病ね』
『女が南瓜や味瓜をたべるのはよくないのです、血が荒れるといふ話ですよ、ざくざくになつてしまうんでせう』
『血が荒れたつてざく/″\になつても喰べて見たい、こんなに美味しさうにふくれてゐるんですもの、妾《わたし》なんかとつくに荒れてしまつてゝよ、かまふものですか』
『そんなことはありません、娘さんちよつとお手を拝見しませう』
からだをゆすぶつてゐる、娘さんの手を男はそつと握つた、自分の掌の上に娘さんの重たい掌をのせてみると、どつしりとした厚ぽつたく動かない魚のやうに、またいかにも金目のなにかの貴金属でものせてゐるやうにも思はれた。
(六)
『味瓜は後から悠つくりとおあがりなさい、私もいつしよに喰べます、後からですよ、ふたりで仲善く、こんなに冷たいものをあなたに今喰べらせる位でしたら、私は最初からあなたと散歩なんかしません』
男はぷんとふくれて、切ない言葉を女の白い顔にふきかけると女はいかにも火のやうな呼吸《いき》をかけられたかのやうに、ちよつと顔をそむけた。
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