すからね、こつちへいらつしやいな、柔らかい地面を選んで坐りませうよ』
 と男が熱心に呼びかけると女はちよつとふり返つたなりで、ぐん/″\と男の先にたつて足早にあるくのが男を激しくいら/\させた、男は追ひすがるやうに女の丸い肩に両手をかけて、地べたにむかつて静かに押へつけたので女は白い二本の足をきちんと揃へて草の上に坐つてしまつた。

    (五)

 足を女の足のしろさとならべてつま先のところをじつと男がみつめてゐると幾分地面が傾斜になつてゐることに気がついた、そして背中にすく/\と暗の中に新鮮な青い樹木のやうなかたちが大きな掌をひろげて男をどんと突いたので、危くがつくりと前のめりに娘さんの膝の上に頭を落してしまふところであつた。
 それと殆ど同時に後のくらがりに『ぽきり』とすばらしい大きな響きがして、娘さんの白い腕が男の眼にいつぱいはまりこんで、長く伸びた太い白い線が重々しいまん丸い何かの物体を[#「を」に「ママ」の注記]男の膝の上に落ちてきたので、男はぎよつと気味悪く思ひながら、じつと自分の膝の上のその丸い品を見極めようとした。
 じつと遠くどこか未来のやうなところから娘さんの笑
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