が起つた。
 或る日、大暴風雨が島を襲つた、草は倒れ、岩石は飛び、樹木は空に舞ひ上り、猿達の住居と遊び場は全く奪はれた。
 島には三本の樹より残らなかつた、一本の樹は風のために枝を裸にされて、たつた二本の枝より残らなかつたし、二番目の樹には二本の枝きり、三番目の樹には六本の枝、つまり、二、二、六計十本の枝より猿達のとびまはる枝がなくなつた、猿達はその暴風雨のことを、枝の数で呼んで、二、二六事件と言つてゐた。
 この事件があつて以来、猿達の叫び声は、恐怖のために身ぶるひし、一倍元気のよい大猿も低い声で叫ぶやうになり、わけて常日頃元気のない猿などは、沈黙してヒイヒイと泣くやうな声より出すことができなかつた。
 ところが突然一匹の猿が大声をあげて叫びだした。
『諸君、我々はあの位の暴風雨によつて沈黙してゐるべき時ではない、大いに叫び、大いに遊ぶ時である、我々は、我々の住んでゐる島がどんな島であるか、はつきりと知らねばならない―』
 そしてこの猿の音頭取りで新しい遊戯が始まつた。
 三本の樹を枝から枝へ、とび移る遊戯であつた、樹は波の打ちよせる崖際に生へてゐて、樹の根元は絶えず洗はれ、樹はいま
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