のだが、女達もスカートを二枚重ねてはいてくることで、尻尾は二枚のスカートの間に隠すことを考へだした、混みあふ電車の中で、つい糸が切れて上着の中から尻尾が飛び出す危険があつたが、さうしたラッシュ・アワーの場合には男社員も婦人社員も、尻を両手又は片手で押へて電車に乗り込むといふ気苦労が伴《ともな》つた。
 蛭社長は社員と話しながら、じつと社員の尻尾を観察することを忘れなかつた、尻尾がなかつたとき社員の感情の動きのわからなかつた欠陥は除去され、尻尾をつけたことで社員の感情の伝達がすぐ尻尾に現れたため、社長は社員達がそれぞれ個性的なふり方で尻尾をふるのを眺め大いに満悦した、大ふり、小ふり、さまざまな尻尾の振り方に依つて、社員の勤怠や、成績に関するメモをとることもできた、社員達にとつて然しさまざまなうるさい出来事が起き出した。
『あいつ、××課長奴、社長の前であの尻尾のふり方をみたまへ、振るわ、振るわ、大車輪ぢやないか、あんなに振らんでもネ』
『出納部の××君を見給へ、社長の前のあの醜態をさ、おや感極まつて尻尾を股の間に捲きこんでしまつたよ――』
 といふ噂をしあふのであつた。
 蛭社長は尻尾の
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