態でしやがんでゐることができないこともわかつてゐるし、また手拭ひをぱらりと木の葉のやうに、とり除いてその頬を娘さんに見せて了ふか、手拭ひをかむつたまゝで、この娘さんの手を思ひきつて眼をつむつてぐつと一思ひに握つて了はうか、ふたつにひとつより他に分別がなかつたからであつた。
(三)
そのうちに娘さんがすらりと撫で肩である割に肥えた肩をもつてゐるといふことが男の眼をたいへんしげきしたので、よりかゝるやうに胸を動かした、はずみに乗つて力いつぱい娘さんの厚ぼつたい肩を手で押しつけてしまつてからはつた[#「た」に「ママ」の注記]思つた。
しかしそのとき踊りの太鼓がいちだんと高く『とんとん』と鳴りひびき、娘さんも平気な顔をして月をながめてゐたので、男はほつと吐息をして、それから娘さんの丸い腕に添つて動かして、とうとう無事に手を握つてしまつた。
男と女とがならんで草原を散歩した。
男は河岸に来たときに、水面の月の反射を怖れて頬かむりの顔を水からそむけたが、女はいたつて平気に、水の反射と月光を正面からうけてぎら/″\と頬を動かしながら、でも自分から足を暗がりの方にさつさと向けて河
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