目の電柱毎に立止つては、立つたまゝ冷たい柱に額を押しつけ、そこで二分間づゝ居眠りをして、前にすゝむのであつた。
ふと見ると広い道路の真中どころに、馬の二倍ほどある黒い動物がじつと彼のやつて来るのを待ち構へてゐた。彼は恐怖しながら接近した、黒いものの形は動物の黒い影絵《シルエット》で影から三米離れたところに怪物の本体がゐた。
『なんてちつぽけな奴だい―』
彼は怪物を軽蔑した、手の平にのつかりさうな一匹の小犬がクンクンと泣きながら立つてゐた。電燈の光りの加減で倍加されて影が道路に映つてゐるのであつた。
『やい、小犬奴が、わが王者の御通行をはばむとは―さては我に害心ありと見えたり』
足を踏張り芝居がかりで、彼は小犬の鼻先へ親指を突き出し『怪物消えてなくなれッ』ととりとめもないことを呪ひ出した。
小犬はだんだんと拳ほどの大きさから鶏卵の大きさに縮まり、ピンポン玉ほどになり、つひに姿を消した。彼は胸をそらし、陽気になつて大きな声で歌をうたひだした。
不意に道路脇の暗がりから、若い警官が現れてきて呼びとめた。
『ちよつと待ち給へ、君はいま何の歌をうたつてゐたかね―』
彼はいま歌つてゐた
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