は手を出すに先だつて、まづ髯をもつてセリ合ふ、髯の優劣や誇張的なヒネリ方で勝負のつくものはつけ、つかぬものは、体力で打ち合つて血を流し勝負をつけた。
『おい、若いの、今度部屋に来るときは、俺のやうな立派な髯を生《はや》して来いよ――』
と源はモッコの引繩を、ヒョイとしやくりあげて、先棒担ぎの若い無髯の土工の力の負担を少くしてやるのであつた。
四日目の日没頃、この無髯の若い土工夫は逃げだした、二里程逃げて追手に捕まつた。彼はその時隠し持つてゐた猫イラズを、追手の眼の前で嚥み、更に御丁寧にも、釣橋の上から身を躍らして、真逆様に谷の激流に身を投げこんだ。
一方そのドサクサに『源』が『飛つチョ』した、『飛《とび》つチョ』とは蝗《いなご》のことで、土工夫仲間では脱走の事をさう呼んでゐる、この蝗のやうにみごとに部屋を跳躍してしまつた、さうした出来事は山間の一飯場の出来事として、それを秘密にするとか、しないとかいふ事柄に関係なしに、完全に秘密を保たれた、何故といへば彼等にはさうした出来事は、日常茶飯事に属してゐたから。
それから幾日目かに、意外にも二人の土工夫は小樽の市街でばつたり行き合つた
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