関なんだ、もし僕が女と関係をした後で、二人が結婚まで進まなかつたらどうだらう、
――女を疵物にしては、良心に恥ぢるといふ意味だね。
――さうだよ、それに違ないよ、女の籍は絶対に抜けないらしいんだ僕の婿入りそんなことは僕の方の家庭の事情でできないことだしな。
水島は、ほつと吐息をついた、第三者の立場にある彼は、水島の恋愛事件に対しては、彼が横合から水島の女を奪はうとしない限り永久に第三者の立場にあつた、だから彼は、勝手なことを考へ、勝手な助言を水島にした。彼はもう見物にあきがきたのであつた。
――水島の女に、ちよつとちよつかい[#「ちよつかい」に傍点]をかけてやらうかしら、あの女の手は美しい、そつと俺の手をのつけても、邪慳に振りはらふやうなことはしないだらう。
退屈さに彼はこんなことを考へたりした、横合から割込んだらう、水島はきつと友達甲斐がないことを憤《いきどほ》り、狼のやうな血走つた眼となり、長い間の交友関係も粉砕され、牙を鳴らして襲ひかゝつて来るであらう。
かうした策戦がまた案外効を奏して、お互に相離れまいと、この乱暴な侵入者を必死と拒み、女や水島の情熱はよみがへり、二人の恋愛は、その最後の土地まで、馬車を疾走させるのでないか、などと彼は友人の遅々とした遊びごとにいら/\と気を揉んでゐた。
(二)
水島が毎日のやうに、彼の下宿に訪ねてきては、嘆息をした。
その姿は耕作もせず、ぼんやり鍬に頬杖をしてゐる農夫のやうなものであつた。
――収穫をどんなに夢想しても駄目だよ、君は鍬を動かしてゐないぢやないか。
事実水島の態度は『雲の上の花園』をさまよふ園丁のやうなものであつた。
夢を見続けて、実行といふことを侮蔑してゐた。
――恋愛といふものは、君等のやうに、長い間楽しめるものぢやないんだ、時日を要するといふことが既にもう失敗だね。それに女などといふものは、非常に敏感ですぐ冷静になりたがるものだ。だから何より女を絶えず興奮させてをくといふことが大切なことだ。
と――彼は煽動した。
水島も、内心あまりに遊びすぎたことを後悔した。そして結局女から何物をも得てゐないことを考へ、寂しがつた。殊に女をすつかり訓練してしまつたことが、既に救ひのないことだと観念した。
――随分愉快に楽しんだよ、このまゝ二人が別れたところで、僕としては充分に遊び
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