、婆さん牛は、だまりきつてゐて返事をしませんので、爺さん牛は、さびしく思ひました。
爺さん牛は、お婆さん牛が、よほど遠方に旅行してきて、言葉も忘れてしまひ、手足もすりへつて、無くなつてしまつた程に、歩るき廻つてきたのだと思ひました。
そして、その婆さんの、白い一塊《ひとかたまり》の石のやうになつた頭を、蹴つて見ますと
――カアーン。カアーン。
とそれは澄みきつた音が、秋の空にひびきましたので、二三度続けさまに蹴つて見ますと、今度は急に吃驚《びつくり》する程、醜い不快な音をたてて、婆さん牛の頭は、粉々に砕けてしまひましたので、爺さん牛はお可笑くなつて笑ひだしました。
遠くから、たくさんの人々が口々に、
――人殺し牛を発見《みつけ》た。捕まへろ。
と叫んで爺さん牛の方に、走つてきました、中には鉄砲をもつた人も居りました。
牛はさんざん暴れ廻つて、逃げようとしましたが、とうとう捕まつて、この爺さん牛も、婆さん牛と同じやうに、黒い屠殺場の建物の中で、額を力まかせに金槌で殴りつけられて、ひつくり返されてしまひました。
*
――婆さんや、おや、婆さんや、お前はこんな処に
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