、泣きました。
 ――婆さんや、お前は何が悲しくて泣くんだい。
 ――爺さんよ、わしもわからないが、かなしくなるんだよ。
 婆さん牛は、小舎の乾藁《ほしわら》に、眼をすりつけて、わいわい言つて泣きました。
 すると小舎の戸があいて、飼主が手に蝋燭をもつて入つてきました、そして大きな声で――こん畜生奴、何を喧ましく、揃つて泣きやがるんだい、おれらは明日の仕事もあるんだから、静かにして寝ろよ。
 飼主は、かう言つてどなりました。
 牛達はそこで、自分達は、何か夜が明けると、悲しい出来事が、身に降りかかつて来るやうな気がして、ならないから泣くのです。と飼主に訴へますと、飼主も急に悲しさうな顔になつて
 ――お前達は、可哀さうだが、夜があけると屠殺場《とさつば》におくつてしまふのだ。
 と言ひました。そして特別に柔らかい草を、どつさり抱へてきて、夫婦牛《めをとうし》にやりましたが、牛はさつぱり嬉しくはありませんでした。
 ――御主人さま、屠殺場といふのはなにをする処でございませう。
 ――そこは、お前達を、殺《や》つつけてしまふ場所だよ。
 ――殺《や》つつけるといふことは、どんなことでござい
前へ 次へ
全137ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング