好のよい、青い青いペンキ塗りの船が一艘、静かにくだつて来ました。
――おーい、青い船待つてくれ、わしも乗せて行つてくれ、やーい。
と呼びとめました。
手品師は、急にこの街が嫌になつたのです、それで、この青い船にのつて河下の街に行つて見たくなつたのでした。
青い船の船頭は、河岸に船をよせてくれましたので、手品師は船に乗りました。船には一人のお客さんもなく、がらんとしてゐました。
――船頭さん、わしはこの日あたりのよい、甲板《かんぱん》に居ることにするよ。
かう手品師が言ふと船頭は
――お客さん、其処に坐つてゐては駄目だよ。いまにお客さんで満員になるんだから。
とかう言ふので手品師は、鉄の梯子《はしご》を、とんとんと船底に下りて行きましたが、船底にも、一人のお客もありませんでした。
*
青い船が、下流の街について、手品師が船底から甲板にあがつて見ると、船頭の言つたやうに、なるほど甲板の上は、船客でいつぱいになつてをりました。
この街は、手品師がかつて見たことのないやうな、美しいハイカラの建物の揃つた街でした。
地面はみなコンクリートで固めてあつて、見あげるや
前へ
次へ
全137ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング