士の首筋を撫で廻してをりましたが、黒い騎士は昼の疲れで大鼾で眠つてゐるので、女はこんどは白い騎士と青い騎士の寝台のところに近よつてまゐりました。

    四
 夜が明けるのを待ちかねて、青い騎士と白い騎士は、黒い騎士をゆり起して、早々にこの怪しい古い寺院を出発いたしました。
 そして三人は旅を続けましたが、寺院から一里もきたと思ふころ二人の騎士は、前夜の出来事を始めて黒い騎士に物語りました。
 黒い騎士は、前夜の出来事を聞いてたいへん残念がりました、そしてこれから今一度引返して、奇怪な女の正体を見極めてくると、言ひ出しました。
 青い騎士と、白い騎士はそのことにたいへん反対いたしましたが、黒い騎士はどうしてもきゝいれませんでした。しかたなく二人の騎士は、そこで黒い騎士と別れて、一足先に王城にむかつて出発いたしました。
 大胆な黒い騎士は、その日の夕方、野の中の古い寺院に引返してまゐりました。
 扉はなんの苦もなく、ひらかれました。
 第一の部屋には、騎士がたつた一人で引返してくることを、ちやんと知つてゐるかのやうに、土間には、一つの秣桶と、一つの水桶と、が用意され、第二の部屋には、一
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