土をたがやしました。
(四)
トムさんは今度は森陰の白い王城を眺めました。
「ああ、私は一生の内たつた一度でも良いからあの様な王城に暮してみたいものだ、純金の王冠をかぶり、黄金づくりの太刀を佩き白い毛の馬に跨り、何千人の兵士を指揮してみたいものだなア、然しこの国の王様のやうに白い立派な長い髭が私にはないがよしよしその時には付髭を夜店で買つてきてやらう、それからお金蔵のお金を全部出して臣民に呉れてしまひ、自分は応接間に紫天鵞絨の安楽椅子に心持悠つたりと反身に腰掛け、一本十円五十銭の葉巻きをくゆらし臣民に一人宛逢つて手のちぎれる程堅い握手をしてやるぞ、それから臣民の頬ぺたをなめてやつたつてかまはないさ」
こんな有様ですから一日かゝつてもやうやう一畦位より出来ませんでした。
その晩は近年にない大暴風でした、トムさんの家の屋根は今にも飛ばされさうな激しさでした。トムさんは余りの物凄さに部屋の炉ばたの焚き火によつて小さくふるへて居りました。するとこの激しい暴風雨の中に、トムさんの家にはこの一、二年この方、猫の子一匹訪ねてきたことがないのに、トントンと表戸を叩くものがあるではあり
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