決めました。村の人たちもトムさんのお人善しには呆れてそれぎりお嫁さんの世話をしてくれませんでした。
 それに村の人達はトムさんが近頃野良へ出ても怠けてゐて少しも仕事をしないぞと噂をするやうになりました。
 それはトムさんが近頃色々空想をする事を覚えたからです。今日もトムさんは一鍬土を起してじつと鍬の柄に凭れポカンと口をあけて、空想にふけつて居りました、思い出しては一鍬土をたがやし、またぼんやりと案山子のやうに突立つて色々空想をいたしました。やがて羽音高くトムさんの頭の上の青空を一群の白鳥が南の湖の方へとんで行きました、トムさんは、「やあ綺麗な白鳥だな……あのたつたのが白鳥の王様だな、すらつと一際首の長いのが王妃さまだな、そのあとの一番色の白いのがお姫さまだな、あゝ、もう私の処へお嫁さんが来ないかしら、もしくるならあの白鳥のお姫さまでも我慢するがな、然し私の家は年中焚火ばかりしてゐるから、あの雪のやうに白い白鳥のお嫁さんのお衣裳が汚く煤けては可愛さうだな」こんな事を思つて居りますと、一羽の鳥が「トムさんの馬鹿」と怒鳴つてトムさんのつい鼻先へ白い糞をおとしたので吃驚《びつくり》してまた一鍬
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